Column

2014.09.09 Tue

コメンタリー: 12. I’ve Grown Accustomed to Her Face

アルバムを作っている時は後半の曲が地味かなあ〜と思っていたのだが、自分の周りの感想では後半の評価が高い。ありがたいことだが、こういうことは絶対に自分一人では予想できないなあ〜。
エマソロの楽器には二種類のパターンがあって、今では YAMAHA DX100 というミニシンセでライブすることも多くなったが元々はオルガンを弾くのがエマソロだった(だからDX100も2台並べている)。アルバムも初期には全曲オルガンでいこうと思っていた。この曲はその時期に録ったものでアルバム中最も古く、2009年の夏。シアターイワトは劇団黒テント(高校生の頃観てた)が拠点として維持していた劇場で、以前は多分倉庫か商家だったものを改造したのだと思う。かねてから自分の理想のスタジオというのがあって、それはあまり創作の場っていう感じがなくて、地元の商店やら町工場みたいな場所というイメージなので、ぴったりだったのだ。実際録ってみると残響の多さに苦労したが、それもそもそも狙っていたことなので、録れたものを落ち着いて聴いてみて、これでいいじゃんということになった。この曲はミックスすらしていない。ラフミックスそのままで、どうしてもこれを超えるミックスが作れなかったのだ。
親の話では6才ころ、楽器店のショーウインドウにあったヤマハエレクトーンに触りたがったというのが、僕のオルガン歴の始まりだ。エマソロのイージーリスニング感はそこから生まれているから、オルガンにしてもジミー・スミスやキース・エマーソン(笑)のようなゴリっとしたものよりもビル・ドゲットやワイルド・ビル・デイビスのようなイナタイもの、あるいはルー・ベネットやローダ・スコットのフランス録音のような、手回しオルガンからの連続をちゃんと感じられる音の方が好きだ。(一番好きなオルガンプレイヤーはフランスのエディ・ルイスだがその話はまた別に)それで「ステレオでなくモノ」「部屋鳴りによるリバーブ」という、この曲の録音方針ができた。一見逆のようだが、僕はオルガンには機種のこだわりが全くない。つきつめればオルガンはサイン派発生器の集合体、ある意味では最高のテクノ楽器だと思っているので、例えば逆に DX7 は立派にオルガンだと思っている。楽器の音色自体には情感が乏しくて、そんな音色で情感を出せる演奏をすること、なぜかそこにはこだわりを持っている。さらに、そのことを、神楽坂の元倉庫の劇場で録りたかったのだ。こだわってるのかこだわってないのか、自分でもめんどくさいな〜と思う…
アルバムレコーディングの後半になって、もう何度かシアターイワトを使わせていただいたいと思ったがその時にはもうなかった。でも平野さん、ありがとうございました。
それで、曲のこと。ミュージカル映画は大好きだがこの曲が入っている「マイ・フェア・レディ」はそんなに好きではない。斉藤和義さんのコメントにもあるように、ウエス・モンゴメリーのライブアルバム「Full house」収録曲の方がきっかけだ。実はいろんなアレンジでずっとやっていて、いつまでたってもベストのアレンジが見つからなかった。ここでひとつの結果を見たような気がするが、それは一番「普通のオルガン演奏をする」というものだった。