Column

2016.12.22 Thu

セルフプレビュー1「ロックンロールのはじまりは」

2016年12月発売の6曲入りアルバム「ロックンロールのはじまりは」。発売日の少し前から、自分自身による収録曲解説を書いてきました。一度公開した後、発売前にはネタバレを気にして書かなかったことなどを加え・修正して、ここに「セルフプレビュー」としてまとめておきます。自分が曲を作る上で何を参考にしていていたのか、その記録でもあります。映画DVDでは必ずコメンタリーを観る人、本を「あとがき」から読む人、ライナーノーツを読みながらレコードを聴くのが好きな方(実は僕自身はそれほどでもない)も、そうでない方も、どうぞ〜。
 
さて一曲目はタイトル曲「ロックンロールのはじまりは」です。ロックンロールをやっている訳でもロックンロールの始まりの音楽は何かについて示唆している訳でもないことは「solo」コーナーにも書いた通りです。
アイデアの原型をとどめてないから聴いても分からないかも知れませんが、レスター・ヤング(1930~40年代を中心に活動したアメリカのサックス奏者)&カンサス・シティ・シックスが演奏した「Way Down Yonder In New Orleans(遥かなるニューオリンズ)」のことをちょっと思って演奏しています。
1920~30年代の音楽がサイン波(一切の倍音を持たない音)で作られたら … というのは僕が常にする想像ですが、それをアナログシンセではなくYAMAHA DX100という’80年代の簡単なデジタルシンセでやっているのは、ギター一本の弾き語り(語らないけど)のようにあくまで「頭から終わりまで、つるっと」演奏できる音楽でありたいということでもあります。
 
しかしこの曲は何と言ってもノイズ。なぜかノイズ。アルバムの冒頭にこういう曲を持ってくるのは「遠近(おちこち)に」と同様で、まだ意味を持たない音そのものをまず聴きたいと思う気持ちからこうなるのかなあ。EGO-WRAPPIN’ 「merry merry」を一緒に作った時の影響もあるかもしれない。
 
ただ僕としてはノイズそのものよりも、それが実は、曲のはじまりに聴こえる丸い音と同じ音色を操作して生まれているところを強調したい。サイン波からノイズまで、DX100 を操作しながら一気に、ワンテイクで録っていて、シンセやオルガンを足しているものの、このワンテイクがこの曲のほとんどの部分なのです。
 
ノイズも「ノイズ」という波形ではなく、サンプル&ホールドという機能を非常に高いレートにしたものを使ってます。この「プログラムしない」というのは、エマソロをやる上で自分にとって大事なガイドラインになっていると思います。。それ以外に「遥かなるニューオリンズ」から抽象画のようなノイズまでを、心の中で一気に移動する手段は、ないからです。
 
 
ちょっとだけ、実際にロックンロールの始まりは何かということについてですが、リズム・アンド・ブルースとカントリーが融合して云々というシンプルな説の他に、いやジャンプジャズやジャイブが、いや歌詞が身近なことを歌うようになって、などいろんな議論があるみたいです。特に僕が面白いと思うのはラテンの影響が指摘されることです。それまでハネる(シャッフル、スゥイング)のが普通だったアメリカのポップミュージックの演奏に対して、ミュージシャンがタテ(八分音符を常に同じ長さで弾く)に演奏できるようになったのはやはりラテンからの影響なのではと思います。実際自分がピアノの八分音符を演奏する時も、二拍目四拍目のバックビートとスリーツーな取り方の中間くらいの感じでやるのが一番ロックンロールっぽくできる気がします。しかし、そういった「音楽史的な正しさ」については僕は特別何か言えるわけでもないし、それを決めることは自分が今必要としていることでもありません。