Column

2017.01.14 Sat

セルフプレビュー4「スピニング・ホイール」

自分が書いた曲のアレンジは、どうしても保守的になりがちだ。「作った時の意図」のようなものが、思い切った変更を加えるのに邪魔をしてしまうからかなあ。それに比べてカヴァー(他人の書いた曲)は曲の意味を純粋に音として捉えやすいから、より自由な気持ちでアレンジすることができるかもしれない。「ロックンロールのはじまりは」もここから2曲、アレンジ面では「キャラ立ち」したカヴァーが続きます。
 
「スピニング・ホイール」(Spinning Wheel)はアメリカのバンド Blood, Sweat & Tears が 1969 年にリリースした曲。ブラスロックって言うのかな、当時のプログレッシブなロックのひとつだと思うけど、正直そのジャンルの音楽には詳しくない(名前がエマーソンなのに…)。ではなぜカヴァーしたかというと、年齢的に、リアルタイムで聴いたことのある最も古い曲のひとつだから。聴いた場所の記憶はおぼろげながら、上野駅の食堂。恒例の北海道→関西の移動途中だった。ただし歌入りではなくインストだったように思う。あるいは、このようなものだったかもしれない。当時はこのような曲が単なる「洋楽」として、結構普通に街中でかかっていたと思う。コード進行も面白くて、僕の中ではヘンリー・マンシーニの「小象の行進」とかと同じ記憶の引き出しに入っている。最近「Tinker Tailor Soldier Spy」という映画を観たら、その中でもこの曲が使われていた(ただし歌はサミー・デイヴィス・Jr.。ここでもまたカヴァーだ)。
 
それで、カヴァーするにあたっていろいろなリズムを試していたのだが(ほとんどの場合、アレンジの方針はリズムから)、突然「シャンガンエレクトロにしよう!」と思い立った。シャンガンエレクトロはアフリカのチープな打ち込み音楽で、イギリスの Honest Jons レーベルからコンピレーションが出ている、程度の知識しかないのだが、そのグルーブ感と文字通りの「速さ」、そしてそれで踊る動画のすごさで大きな印象を受けていた。改めて言うまでもないがカシオトーンによるジャマイカのリディム「スレンテン」から始まってインドネシアのポップス、そして韓国のポンチャック(これについてはTUCKERの素晴らしいレポートあり)まで、チープというか、きちんと言うと「安い機材の音を素晴らしいグルーブに読み替えることのできる人間のアイデアの力」は、真剣に尊敬している。DJ ではないバンド系のミュージシャンと会話していて「シャンガンエレクトロ好きでしょ」と言ってすぐに通じたのはneco眠るだけだったけど…
 
もうひとつの主人公はヤオヤ=TR-808だ。最近映画にもなったこのリズムマシンに最初に出会ったのは「暗黒大陸じゃがたら」の「南蛮渡来」だ。当時僕はまだ音楽をやるとも決めていない学生で、もちろん後でこのバンドに参加するなどとは思ってもいない。しかしニューウエーブ全盛の中で、英米のロックとは違う音楽に根ざしたダブやアフロで、機械的なスクエアなビートがグルーヴを生み出だせるということを知ったのは、このアルバム、このTR-808からだった。そこにはマーヴィン・ゲイの「Midnight Love」とは違うTR-808の使い方(このアルバムも素晴らしいが)があり、それは、機種は違うが(CR-78)細野さんの「シャンバラ通信」からの流れに通じるものだった。
 
誰からも指摘されないので自分で言うと、僕のスピニング・ホイールのカヴァーでは、有名なイントロのブラスのフレーズを、キーボードではなくTR-808にやってもらっている。僕はとにかくこの楽器の「コンガ」という音色が好きで好きで、自分の演奏よりもこのTR-808のコンガの音の方がこの曲においては大切だと思うくらいだ。大人買いならぬ「大人808コンガ」をやってみたかったという、ほぼそれだけの狙い…しかしちゃんと聴いていただくと、その他の部分においても、意外と原曲に忠実にアレンジしていることも、分かっていただけると思う。グルーブの中できちんと「埋もれることのできる」メロディーの演奏と音色も、自分にとってはとても大切な要素なのだ。
 
ベースは DX100。アルバム中最も上手く弾けているベースだと思う。メロディーは「帰り道の本」と同じHammond X-3。めまぐるしくリズムが変わるが、一曲を通してプログラムするのではなく、別々のパターンを作っておいて曲のその場所になったら手動でパターンを切り替えるという方法でレコーディングしている。これもまたリズムマシンに命を吹き込むひとつの方法だと思っている。