だから、録音時には既に「でき上がっていた」この曲、見えないゴールをアルバムの他の曲と並べて聴いた時には、ちょっと収まりの悪さを感じていた。レコーディング末期の、お互いが自分をさらけ出してアイデアをふり絞っているような演奏とは違い、どこか「mmm with エマーソンって、こんなものかな」とわざわざ設定した姿に向かって演奏しているような雰囲気がある。 …と、アルバムをまとめた頃には、思っていた。しかし、今聴いてみると、どうして歌も演奏も素晴らしい。特に声には、作業が連続した時期とはまた違った伸びがある。僕についても同様で、足鍵盤を使うというアイデアの自由さとそのグルーヴ感は、2019年には出せなかったかもしれない。
このアルバムの前年2018年に、mmm with エマーソンはカセットテープをリリースしている。すべてオリジナルからなる4曲入りで、うち3曲はCHASING GIANTSにも収録されている。ライブ会場限定での販売だった(現在は通販もしています)。EU・UKツアーが決まって音源を作ることにした当初は、この4曲を中心に何曲か加えればそれでアルバムになるだろうと思っていた。しかしある時点から、これから作ろうとしているものは、カセットとは曲数だけでなく質的にもまったく違ったものになるだろうという気がしてきた。そう思い始めたのは、2019年の春にmmmからこの曲、Chasing Giantsのデモを聴かせてもらった時だった。
もうひとり「ただ数えている」人がいる。ゲストドラマーである菅沼雄太(僕はEGO-WRAPPIN’のサポートを一緒にした時の癖で「すがちゃん」と呼んでしまうので、以下すがちゃん)だ。 mmm with エマーソンは主にサンプラーシーケンサーを使ってドラムの音を出しているが、特にそれを理想としているわけではない。しかしまた、一度ドラマーに演奏してもらったら、それが良い結果であるほど「あと戻りはできなくなる」ことも分かっていたから、アルバムに生演奏を加えるべきか、僕は迷っていた。しかしこの曲の準備が進むにつれて、そろそろ「潮時」かなと思った。人選は悩まなかった。mmmも坂本慎太郎バンドですがちゃんの演奏は知っていたから、話は早かった。あとは、演奏の希望をどう伝えるか。
冒頭のハイハットに対する僕のイメージはずばり、これだった。 João Gilberto / João Gilberto (三月の水)1973 フルセットで入ってからのドラムには特にお手本はないが、僕は基本、パンキッシュかつグルーヴのあるドラムが好きだから、その王道を行ってくれると信じていた。あえて僕が理想とするドラマーを挙げるなら、Ian Dury and the Blockheadsのドラマー、Charlie Charlesがそのナンバーワンだ。 New Boots And Panties!! / Ian Dury 1977 我々の希望を彼らしいフィルターに通して、すがちゃんはアルバムで聴ける通りの丁寧な演奏をしてくれた。嬉しい。
mmm with エマーソン北村のアルバムCHASING GIANTSが2019年11月29日に発売されてから、半年が経った。この半年のうち後半の3ヶ月に起こったことは、みなさんと同様、このアルバムの展開にとっても予想だにしないことだった。アルバムを携えていろんな場所を訪れようと計画していた春から初夏のライブはほぼすべて中止となり、制作とツアーに明け暮れていた半年前が冗談のような、静かな日々が続いている。しかしその静けさは、一瞬のできごとが二度とは戻れない変化をもたらすような緊張感と表裏になっていて、まるで時間が伸び縮みしているような、不思議な感じの中で毎日が過ぎている。
bubblingnotes は基本的には自分の作品しかリリースしませんが、mmm with エマーソンなど(ほぼ)自分のプロデュースによる作品や Manuel Bienvenu のように気心の知れた友人の作品はソロと同等だと思っているので、このレーベル名の下に発売することにしました。mmm も自分のレーベルから作品をリリースしているので、ぜひそちらもチェックしてください。
理由の一つは、ライブ会場となったThe GOAT Social Clubが、予想とは全く違った、今までナイロビで見たどことも似てない場所だったからかもしれない。このカフェはナイロビから北に約17km離れた(市内からUberで30分くらい。渋滞がなければ)Kiambuというところにある。現在はナイロビに通勤する人も住むこの街はなだらかな丘と灌木の林に囲まれていて、素晴らしく美しい。一見倉庫風の建物にあるカフェに入ってみると、そこは観光客向けでも地元向けでもない独特の雰囲気を持っていた。店内に飾られたアートや調度品はアフリカを基調にしているのだけどよく見るとクオリティが高く、それでいて敷居の高い感じがない。それもそのはず、ここは著名なアフリカ人画家とデザイナーのお二人が経営していて、お店は彼ら自身のセンスを示す拠点的な場所でもあるようだ。お客さんも黒人・白人・東洋人(日本人だけではない)が一つのグループになって来ていることが多く、彼らが話す様子も落ち着いていて、気取っていない。何もかもが素晴らしいのだが、自分にはここを分類できる基準がない。まあいいか、スタッフのみんなもフレンドリーだしごはんも美味しいから、自分のことをやるだけだ。
(3)各パートが別々のことをやりながら全体としてひとつのグルーヴを作り出すのがアフリカ音楽やレゲエの特徴だということ。その典型的な例として「ベースライン」の話をする。ベンガでも特徴的だったベースライン。そこから話はレゲエにそれて、「ベースラインだけ聴くと何の曲だか全然わからない超有名曲」クイズを出す。これはMUTE BEATのベーシスト松永孝義さんが生前やっていた「持ちネタ」を拝借したもので、会話で盛り上がらなかった時の保険として用意していたものだ。予想通り、トークより演奏の方が盛り上がる。アンコールまでもらって、結局トークだかミニライブだかわからない感じになって終了。曲は One Loveでした。