Column

2020.06.05 Fri

CHASING GIANTS セルフレビュー (4) ぼくのともだち -しょうもないけど愛してる-

「しょうもないけど愛してる」という言葉が示している通りの、愛すべきトラック。聴いてくれる方からの人気も高い。録音もミックスも、比較的悩まずに進んだ。もちろん、それだけではない部分もあるのだが。

mmmの「小さなともだち」を歌った歌詞は、簡単だがうなずけるストーリーと、視覚的ではっとする言葉が、多すぎることなく並んでいる。特にこの「愛してる」という言葉はmmmの作詞の特徴をよく表してると思う。
ご存知の通りmmmは、英語と日本語の両方で歌詞を書く。「愛してる」という単語は、日本語だけで歌詞を書く人にとってはなかなか上手に使えない言葉だと思う。それをさらっと出せるmmmはやはり英語を話す人だと思うのだが、本当に良いと感じるのは、それが聴く人に、日本語としてとても自然に入ってくることだ。歌詞カードを見ずに曲を聴いた時、この部分から英語のloveを連想する人は、ほとんどいないのではないかな。少しだけドキッとして、それがなぜかと考えて初めて、そのことに気づく。そんな自然さをこの「愛してる」は持っている。

mmmの告知などをしているスタッフさんともよく話すのだが、これはblueなど、mmmの他の日本語曲を演奏するときにもいつも思うことだ。英語を知らなければ書けない日本語ではあるが、日本語しか知らない人の歌詞よりも日本語らしく響く。よく使われる日本語だけが日本語らしい日本語なのか、という疑問を投げかけるテーマでもあると思う。そして多分逆も言える。mmmの英語詞は、中途半端な英語力しか持たない僕にとっても視覚的にとらえやすく、音で記憶に残りやすい(しかし、その意味をきちんと知ることも大切だ)。それで、僕がmmmの曲をアレンジをする際には、最初は極力歌詞資料を読まないようにしている。そのせいで、細かい表現上の苦労をたくさん見落としているような気もするが。。

歌のレコーディング自体もあまり苦労せずに済んで、ほぼテイク1でOKだった。そういう過程はミックス・マスタリングと作業過程を進めるほど明らかになるもので、この声の柔らかさはレコーディングテクニックで作れるものではない。特に二番の「ノックしたとこで誰にも答えないの」という部分はアルバム中でもベストの声のひとつだと思う(全く別の意味で、もう一つのベストは宇宙人だと思う)。ウィスパーともナチュラルとも違う、mmmの声としか言いようのない声。そして僕はそういう部分には、何も手を加えていない。

改めて聴くと、演奏のグルーヴが「ゆるくてすごい」。ドラムボックスはローランドTR-66という古いものを使い、特殊な方法で内臓のパターンとは違う音数の少ないパターンを演奏させているのだが、まるで人が揺れながら電子ドラムを叩いているようだ。実際にはドラムボックスはとても正確なタイミングを刻んでいる。それが揺れながら二人の演奏についてきているように聴こえるのは、我々の側が自分のリズムで、相手を聞きながら、機械的なフレーズを演奏しているからだ。ミスタッチがあってもそのまま残している。

アレンジ上でのこの曲のハイライトは、間奏での口笛とキーボードのユニゾンと追いかけだろう。これも細部が決まる前にとにかく録音してみたかったから、二人が微妙にずれていてもそのままのテイクを使っている。同じコード進行が二回繰り返されていて妙に長いのだが、その長さは僕にとっては一番と二番の間の、ストーリー上の時間経過を示すものだ。キーボードは人から長く借りているのかいただいたのか分からない、多分1970年代の電子ピアノだ。
そして二番、とても大切な二番が過ぎたあと、ストーリー的にはあまりかちっとした「締め」がないまま、やや唐突に曲は終わる。これもmmmの曲の特徴だと思う。二番で終わるか、そうでなければ三番には行かず、別の風景へと逸脱してしまうことが多い。

この曲は珍しくキレイに終わっているが、そのキレイさはどことなく曲には含まれなかった「逸脱」をイメージさせるところもあり、それがこの曲をハッピーなだけではない独特のテイストを持ったものにしていると思う。このトラックだけでも楽しめるが、ぜひ、アルバムの他のトラックと合わせて聴いていただきたい曲でもある。