Column

2023.09.26 Tue

COVERS 2003(4)カヴァーを録音するということ

COVERS 2003 は全曲がカヴァーです。その理由は、当時それほどオリジナル曲を作っていなかったというのもありますが、やはり第一に、Jackie Mittoo を始めとするレゲエ・ロックステディのインスト(器楽演奏)の多くがその時代に流行った曲のカヴァーで、その「味」が僕にとっては何とも言えない良いものだからです。この好みだけは何年経っても変わりませんね。

ただし、僕の録音はストレートにロックステディインストをやっているわけではありません。6曲中の2曲は直接 Jackie Mittoo のカヴァーですが、それらを含めてどの曲もさまざまな要素、僕がその曲を録音するにあたってあちこち「想像の寄り道」をしたことが反映されています。ロックステディのミュージシャン達の作った音楽スタイルを尊敬してその鍵となる部分を押さえることは大事ですが、僕は、要素としてスタイルを踏襲すること以上に、彼らの音楽作りの姿勢そのものを尊敬して踏まえることの方が大事だと思ってます。彼らのカヴァーはコード付けも謎の部分があり、メロディも時に「うろ覚え」なんですが、それでなければ出せないグルーヴがあり、表したい気持ちがあります。それを単にキッチュなスタイルとしてマニアックに楽しむのか、それとも今ここで暮らしている我々の気持ちに訴える音楽作りに活かすのか、ミュージシャンとしての姿勢が大いに問われるポイントです。当然僕は後者をめざしていて、カヴァー曲のアレンジが、他人の知らない音楽知識の引き出しを誇示するようなものになるのは最悪だと思っています。

しかしながら、古今東西の音楽情報とその価値基準(リファレンス)にまみれて暮らしている今の我々ミュージシャンにとって、いくら Jackie Mittoo が “Theme from a Summer Place” を学校のピアノで弾いた瞬間のような気持ちになりたいと思っても(僕は本当に、真剣にその気持ちになりたいです)、今スタジオで同じアレンジで “Theme from a Summer Place” をやればそうなれるという訳もなく、ではどうしたらいいのか……というところから、「想像の寄り道」が始まるのです。

そんな「寄り道」ぐあいは時に、オリジナル曲よりもカヴァー曲の方がより分かりやすく現れるかもしれません。何と言ってもオリジナル曲には「自分が作った」という意識が重くのしかかっているので、それによって「寄り道」は見えづらくなっている場合があるからです。その意味ではカヴァー曲というものには、オリジナル曲よりもより「純粋に」音楽が表現されているのかも知れません。しかしそのことは、オリジナル曲を作ることの価値を下げるものでは全くないと思います。そもそも僕は、音楽に「絶対的な純粋さ」みたいなものをあまり求めません。今日これを言っておかないと自分がおかしくなりそうだからこんな曲ができちゃったというようなものは、いくら自意識にまみれていようと、「純粋」でなかろうと、かけがえのない音楽だと思っています。ようはそれをどう形にするか、人に伝えるかということが、ミュージシャンとして仕事をする上で最も大事なポイントになってくるのです。

2023.09.20 Wed

COVERS 2003(3)再リリースの意味

(前回からの続き)ひとつには、自分のバンド歴は常に「タイミングを外して」きたことの連続だったという思いがあります。’80年代の初頭から音楽ファンとしてレゲエやダブ、ニューウエーブに代表されるいろんなものがミックスされた音楽に浸って、その結果 JAGATARA や MUTE BEAT に参加したのですが、その時すでにそれらのバンドは数年の活動歴を持っていて、’90年代に入ってまもなくその活動を終えてしまいます。その二〜三年後、僕がライブハウスのスタッフとして全然自分の時間を持てない生活をしていた頃、僕が’80年代に浸っていた音楽は突如(と僕には思えた)、ヒップホップやダンスホールレゲエやスピリチュアルな「4つ打ち」、要するにクラブミュージックとして再び僕の前に現れ、さらにはそれをバンド演奏に取り入れる、年齢的には僕と同じくらいの仲間達が続々と生まれてきました。しかしその時……諸手をあげてそれらの動きに飛び込むには、僕はどうしても「それは既に一度やったこと」という意識から離れられなかったのです。結果的に、’90年代の「新しい」音楽にくみしながら、その「新しさ」の価値を、心から信じていたわけではなかったのかもしれません

’90年代の中盤〜末の音楽シーンにおける「新しい」ということの価値の大きさ、そのキラキラ感は、どんなに人の知らないことをやっても必ずそのリファレンスを見つけることが可能になってしまうような、現在の音楽を作る人が取り囲まれている状況からは、ちょっと想像できないものがあると思います。その中で僕が持っていた小さな違和感は、少なくとも自分にとっては、その後のエマソロを始める原動力のひとつになっているような気がします。そして COVERS 2003 に収録されている音源は、ちょうどその転換点あたりに録音されたのです。当時そんな意識は、ほとんどありませんでしたが。

もうひとつだけ言っておきたいのは、めちゃめちゃ普通な感想ですが、この音源、シンプルで良いんですよね。この録音が「ライブ」(いわゆる一発録り)で演奏されているということだけでなく、発想からアレンジから楽器から、それまでのバンド演奏では体験したことのない制約を感じながらやりたいことを落とし込んでいる、ある意味での切迫感が、そのシンプルさを支えていると思います。この音源の十年後に「遠近(おちこち)に」に始まるオリジナル曲中心のアルバムを作って、その時もまた別の切迫感があったんですが、今回 COVERS 2003 として収録されたトラックを聴くと、やはり普通にシンプルでいいなあと思うんです。そのへんを自分できれいに整理するのは、いつまで経っても難しいですね。

2023.09.17 Sun

COVERS 2003(2)オリジナルリリースについて

COVERS 2003 のオリジナルリリースである3枚の7インチシングルは、2003年の9月から11月にかけて、Small Circle of Friends のレーベルである basque から発売されました。魅力的な二人組である Small Circle of Friends は、当時僕がサポートしていた Hicksville やその周辺のバンド・ミュージシャンと一緒に「Holiday」というイベントを行っていて、都内だけでなく大阪にもツアーしました。心斎橋(!!)のクラブクアトロでイベントを行って、確か僕はライブの他にも開場時にオルガンによるBGM演奏をしたと思います。当然ながら今でも活発にライブやリリースを行っている彼らの活動にも、ぜひご注目ください。

この7インチシリーズを出した頃は、クラブミュージックというくくりでDJやトラックメイカーから提示される音楽が「新しい」ものとしてバンドシーンにも力を与える、という’90年代からの流れが、それまでに比べても一層拡がった頃だったと思います。しかしながら、COVERS 2003 に収録された=当時発売された7インチの曲たちに、当時の「先端」感はあまりないです。サンプリングもなく、エッジの効いた音作りもなく、リリース時点で「エマーソン北村」に期待されたと思われるサウンドよりは、ずいぶんパーソナルで、ざっくり言って「地味な」印象だったのではないかと思います。もちろん当時から、こういうサウンドを「ローファイ」な「質感」として特徴づける言い方もありましたが、それを狙って作っているのでないことは聴いていただければわかると思います。

当時の「先端」を目指して作られた曲たちだったら、今回 COVERS 2003 としてリリースされるにあたってもっと「古さ」を感じたかもしれないんですが、この数ヶ月リリースのために繰り返し音源を聴いていても、二十年前ではなくて数ヶ月前の録音と錯覚してしまう瞬間があるくらい、その辺はあやふやです。それを「オールタイム楽しめる良い音楽」と感じるか「時代感のない、つまらない音楽」と評価するかは聴く人それぞれで良いと思うのですが、なぜ僕の作るトラックはそうなるのか、自分なりに考えてみました。

今回の音源に限ったことでないのですが、僕の作る音楽には、常に「新しい・外からの音楽要素」と「自分自身の内にあるもの」との間の距離感というか、距離を測りたくて測れないような違和感が、常にあると思います。もっと簡単に言うと、「こういう風にやりたい!」と思う気持ちと「自分はなぜこうやりたいのか」という引っかかりとが常にせめぎ合ってしまう、ということです。

それにはいろんな理由があって、また機会があればもっと考えてみたいですが……(続く)

2023.09.14 Thu

COVERS 2003 について(1)2003年について

2023年10月11日(水)にリリースされる 僕の COVERS 2003 について、リリース日までの間、思いついたことを書いていこうと思います。試聴や購入の参考にしたり、聴いてからこれを読んでさらに楽しんでいただけたら。

まず、今回のカヴァー集を作った2003年ころ、僕は何をしていたかです。この時まだ「エマソロ」という言葉はありませんでした。これ以前にもエマーソン北村名義の一人録音音源はいくつかあるのですが、自分で曲を書き、制作からライブまでひとつの意思をもって進めるという意味での「ソロ活動」は、この時点では行っていませんでした。
「ミュージシャン」としてのエマーソン北村にはふたつの活動があって、ひとつは「エマソロ」やコラボ、つまり曲作りからリリースまで関わって進めるいわゆるアーティスト活動。それから、他の方の曲にキーボードで参加したりアレンジやプロデュースをする、通常の意味でのミュージシャンとしての活動。僕にとっては、割く時間のバランスはその時によっていろいろでも、このふたつはどちらがメインということなく、あくまで両方で「エマーソン北村」の活動をなしていると思っています。

COVERS 2003に収録された音源を作った2002~2003年頃は、今と比べれば他の方とセッションをする時間の方が圧倒的に多く、自分で曲を作るということもあまりなかったのですが、たまたま2002年に、後のエマソロにつながるような音楽の作り方と、他のアーティストの活動とが交差するようなできごとがありました。そのひとつは EGO-WRAPPIN’ のアルバム「Night Food」に、エゴのお二人と僕だけで演奏した「5月のクローバー」が収録されたこと。それから、UKのアーティストHERBERTのリミックスEPに(僕の場合はリミックスではなく再構築というか、要するにカヴァーですが)参加したことです。これらのトラックで僕は、今回のCOVERS 2003と同様、足鍵盤付きのオルガンとTR-808とで「一発録り」を行っています(そもそもなぜこのスタイルなのかということも、おいおい書きたいです)。

そんな流れが背景としてあって、翌2003年に「ソロ」の7インチを作ろうというお話が浮上してきました。次回はその、今回の収録トラックのオリジナルリリースである7インチについてです。

HERBERT “addiction” EP のステッカー。自分用の書き込みあり。