Column

2020.06.14 Sun

CHASING GIANTS セルフレビュー (10) Moon River -世界を見に-

mmmと僕がはじめて一緒に音を出した2016年の旧グッゲンハイム邸「初夏のセンバツ」で演奏したのが、オリジナルのI’d Rather Beとこの曲、Moon Riverだった。もちろん有名映画劇中歌のカヴァー。

mmmの歌は特に、rainbow’s endというところがいい。本当に、虹が地面に着地しようとする場所で、誰かが待っているような情景が目に浮かぶ。普段英語を話す人によるカヴァーでもあまりそんな風に聴こえたことがないので、ライブ後にそのことを話すと、mmmの方でも歌い方についていろいろ考えている点があるようで、あ、この人はふんわりしているようで、それだけの人ではないのだなと思った。片手ではずっとウイスキーグラスをカラカラいわせていたが。

僕の方はそれに対して、このようなスタンダードでは100回やったら100通りのバッキングができると思っているので、イントロ以外はあえて何も決めずに演奏した。茅場町の七針で、キーボードも外部スピーカーから鳴らし、歌とアンビエントマイクだけで録っている。

意識してやったわけではないのだが、マスタリングの前にミックスの終わった曲をアルバムの順番通りに聴いてみたら、「宇宙人」で何億何万何千何百光年を旅した「僕」が、最後に降り立った惑星で聴こえてきたのがこの曲だった、というストーリーが浮かんできた。mmmも同じだと言う。アルバム作りというのは受け手に曲をできるだけ「聴かせる」作業の連続だから、最後くらいは我々にとっても「聴こえてくる」ようなトラックがあってもいいのではないかと思った。それでマスタリングでは、音量調節などの「聴かせる」作業は何もせず、「宇宙人」からの曲間も非常にゆっくりなものにした(あえてそれ風の音質にすることもしなかった)。「僕」が降り立った惑星がどんなところかは分かったが、結局「彼女」に会うことができたのかどうかは、わからない。

この曲の後は、一曲目に戻って虹の向こうに再び巨人を追ってもいいし、音楽を聴くのを終えて、「世界を見に」出かけてもいい。

* * *

10曲分10回に渡って続いたCHASING GIANTSセルフレビュー、読んでくれてありがとうございました。
本編に書ききれなかったこととしては、まずアルバムのカヴァーデザイン。ルドンの絵とタイトル文字を組み合わせ、アルバムにふさわしい色合いにしてくれたKuidoさん。本当はトレーシングペーパーのレイヤーがもう一層多くて、パッケージを開けるごとにまさに巨人を追っているようなカヴァーになる予定だったのですが、予算の問題で叶わず、申し訳なく思ってます。mmm staffさんによるbandcampのQRコードカード、Masami AokiさんによるTシャツなど、本盤以外でも良いデザインに恵まれている当プロジェクトです。

オフィシャルMVというものは作れてないのですが、2020年2月2日に行われたリリースライブでの、mmm+エマーソン+菅沼雄太+icchieによる動画が、最近公開されました!今のところはChasing Giants一曲だけですが、この後他の曲も、順次公開していきたいと思ってます。

カセットに収録されているのにアルバムには収録されていない「新しい朝」という曲は、曲自体が良くなかったのではなく、カセット音源のアレンジの方向性がどうもこのアルバムの中で収まりが悪かったために、収録を見送りました。アレンジを変えてまたやってみたいです。同じくアルバムの流れがぼやけるという理由から、レコーディングは行ったのにアルバムに収録しなかった曲が、一曲だけあります。楽曲のアレンジ同様アルバムをまとめる上でも、CHASING GIANTSは極力余分なものを残さない方向で作りました。非常にオーソドックスな「アルバム」というものの考え方に立っていると思います。

mmmと僕・エマーソン北村によるこのアルバム以降の作品として、実はすでに一曲、レコーディングの完了しているトラックがあります。他アーティストに提供しているものなので、発表は先方から行われるのをお待ちください。しかし、mmmの歌詞とヴォーカルパフォーマンスも、僕のアレンジと演奏も、これまた一筋縄ではいかない、そしてパワーに満ちたものになっていると思います。どうぞご期待ください!

このセルフレビューはCovid-19によるStay Home期間中に、なかなか二人揃っての活動ができない中で書いたものです。たまたま僕はこのような大量の文章を書きましたが、mmmにとってもきっと同じだけ、違う視点からCHASING GIANTSについて語れることがあると思います。それを聞くのも絶対面白いことだと思うのですが、多分彼女は文章を書くよりも音楽作りそのもので「次」を表現してゆく人だと思うので、僕もそれを楽しみにしながら、また活動のできる状況になったら、一緒にやっていきたいと思っています。みなさんどうぞお元気で!