Column

2023.09.20 Wed

COVERS 2003(3)再リリースの意味

(前回からの続き)ひとつには、自分のバンド歴は常に「タイミングを外して」きたことの連続だったという思いがあります。’80年代の初頭から音楽ファンとしてレゲエやダブ、ニューウエーブに代表されるいろんなものがミックスされた音楽に浸って、その結果 JAGATARA や MUTE BEAT に参加したのですが、その時すでにそれらのバンドは数年の活動歴を持っていて、’90年代に入ってまもなくその活動を終えてしまいます。その二〜三年後、僕がライブハウスのスタッフとして全然自分の時間を持てない生活をしていた頃、僕が’80年代に浸っていた音楽は突如(と僕には思えた)、ヒップホップやダンスホールレゲエやスピリチュアルな「4つ打ち」、要するにクラブミュージックとして再び僕の前に現れ、さらにはそれをバンド演奏に取り入れる、年齢的には僕と同じくらいの仲間達が続々と生まれてきました。しかしその時……諸手をあげてそれらの動きに飛び込むには、僕はどうしても「それは既に一度やったこと」という意識から離れられなかったのです。結果的に、’90年代の「新しい」音楽にくみしながら、その「新しさ」の価値を、心から信じていたわけではなかったのかもしれません

’90年代の中盤〜末の音楽シーンにおける「新しい」ということの価値の大きさ、そのキラキラ感は、どんなに人の知らないことをやっても必ずそのリファレンスを見つけることが可能になってしまうような、現在の音楽を作る人が取り囲まれている状況からは、ちょっと想像できないものがあると思います。その中で僕が持っていた小さな違和感は、少なくとも自分にとっては、その後のエマソロを始める原動力のひとつになっているような気がします。そして COVERS 2003 に収録されている音源は、ちょうどその転換点あたりに録音されたのです。当時そんな意識は、ほとんどありませんでしたが。

もうひとつだけ言っておきたいのは、めちゃめちゃ普通な感想ですが、この音源、シンプルで良いんですよね。この録音が「ライブ」(いわゆる一発録り)で演奏されているということだけでなく、発想からアレンジから楽器から、それまでのバンド演奏では体験したことのない制約を感じながらやりたいことを落とし込んでいる、ある意味での切迫感が、そのシンプルさを支えていると思います。この音源の十年後に「遠近(おちこち)に」に始まるオリジナル曲中心のアルバムを作って、その時もまた別の切迫感があったんですが、今回 COVERS 2003 として収録されたトラックを聴くと、やはり普通にシンプルでいいなあと思うんです。そのへんを自分できれいに整理するのは、いつまで経っても難しいですね。