B2 (デジタルでは5曲目) Polka Dots and Moonbeams (Jimmy Van Heusen-Johnny Burke)
1920~40年代のジャズが好きになったきっかけは、何だったかな。パンクの時代にロックンロールのはじまりを探すみたいな話題があって、ルイ・ジョーダンらのジャンプジャズや映画「ストーミー・ウェザー」のニコラス・ブラザーズのダンスがプリミティブを求める気分にぴったりだった時もあったけど、さらに思い出すと子供の頃にTVか何かで「グレン・ミラー物語」をそれと知らず観ていた気もするし、それを言うなら3才にも満たない頃に観ていた「トムとジェリー」は今思うと’40年代ビッグバンドのアレンジにあふれていて、そんな子供にしてもスピード感のあるリズムとちょっと怖い時もある和音が強く印象に残ったし、実際後から調べたら劇中でトムが”Is You Is or Is You Ain’t My Baby”(ルイ・ジョーダン。ただし演奏は別)を歌うシーンもあったり、とにかく意外とマニアックにならずに、モダンジャズ以前のジャズに触れる機会はその年代の子供にはあったのだ。
COVERS 2003の頃は僕のそんな好みがさらに拡がって、ジャンプジャズなどからさらに、室内楽的なビッグバンドへと興味が向いていた時期だった。そして見つけたのがクロード・ソーンヒル楽団で、ヴォーカルグループをフィーチャーした”There’s A Small Hotel”も好きだったけど、イントロから和声のアレンジがすごかったのでこれをオルガン一台でできないかと思い、Polka Dots and Moonbeamsをカヴァーすることにした。
和声に加えてやりたかったこととして、リズムはとてもオーソドックスな、電子オルガンのリズムボックスに入っているようなリズムを使った。今もエマソロで多用するこのようなドラムボックスのリズムの妙な「安心感」って、何なんだろう。もはや自分に近すぎでその意味を思い出すことすらできない。ただしこの曲だけで使っている要素もあって、シンセで作ってTR-808に加えているリズムの音で目指したかった雰囲気は、ずばり、YMOの「シムーン」だ。ある年代の人には近すぎて意識できないのだけど、やはりエマソロにはYMOの影響があるのだと思う。
自分のオルガンではすっかり音数が減ってしょぼくなってしまったイントロを始めとする原曲のアレンジは、当時同バンドのアレンジャーをしていたギル・エヴァンスによるもの。後にマイルス・デイヴィスとのコラボレーションで有名になるあの人だ。最近きっかけがあってまた彼のアルバム「The Individualism of …」を聴いているのだけど、和声とリズムの両面においてとことん「にじみ」を追求したんだなあとつくづく思う。彼の表現方法は譜面を書くことだからアドリブ中心のジャズにおいてはパフォーマーとは違った立場で受け取られることもあるようだけど、単音の楽器で即興的にメロディを作るということとは違った「瞬間」の表わし方がジャズ(やそれ以外の音楽)にはあるのだということを、彼の音楽から気づくことができると思う。
今年行ったCOVERS 2003発売にまつわるエマソロライヴでは、気に入ってくださる方の多い曲でもあった。
“Polka Dots and Moonbeams”が入っているアルバムではないのだけど、アートワークが良かったので。