子供の頃は体が弱かったので、よく学校を休んだ。熱を出して朝から布団に入っていると、ラジオが「まもなく朝10時、○○デパート開店の時間です」というアナウンスをしていた。タイアップの番組だったのだろう。そのデパートは僕もよく知っていて、大きな大理石の踊り場が印象的で、名前の分からないクラシックの BGM とリンクしていた。
この曲のリズムマシンは一部を除いてほとんど、音色そのものからアナログシンセで作っている。このような CR-78 的リズムマシンの音はスライや Timmy Thomas のようにアンプを鳴らしていわゆる「空気感」を持たせて録った方がミックス的にはまとまるのだが、この曲のリズムのことを考えていたらむしろ、僕とオルガンがリズムマシンの中に入り、電子回路の中で演奏しているようなイメージが膨らんでしまい、結果オルガンにリバーブがかかりリズムマシンはドライ、というミックスになった。
で、リバーブ > 踊り場 > デパート > ラジオ > 風邪で熱、という想像をたぐっていたわけだが、最近になって、僕が聴いていたラジオ番組の名前が「まるい手帖」というものだったことを知った。朝、熱でちょっとシュールになった頭に響く大きな踊り場のクラシック…曲名は、そんなとこです。
この曲の原型はかなり昔に作っていて(多分アルバム中で最も古い)’96年に一度だけエマーソンソロをバンドでやろうとしたことがあって、その時のベースも松永孝義さんにお願いした。松永さんはこの曲のブリッジ部分の転調を聴いて「へへへ〜、モンク(ジャズピアニストの Thelonious Monk)みたいな転調をやりたいんだろう〜」と、良いと言っているのかけなしているのか分からない反応をした。なぜかそのことだけをよく覚えている。